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名古屋地方裁判所 平成6年(ワ)183号 判決

主文

被告は、原告に対し、一八五万九四五二円及びこれに対する平成七年八月三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

被告は、原告に対し、二〇〇〇万円及びこれに対する平成七年一月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二  当事者の主張

一  原告

1  被告は、日産サニー中部販売株式会社を平成六年一月四日に吸収合併し、自動車販売等を業としている会社である(以下、日産サニー中部販売株式会社をあわせて、単に「被告」という。)。被告は、早川賢司(旧姓新美、以下「早川」という。)を従業員として雇用し、自動車販売に従事させていた。早川は、昭和六一年五月から、被告半田営業所の所長として、被告に勤務していた。

2  原告は、自動車販売を業とする株式会社大豊(以下「大豊」という。)の代表取締役である。大豊は、平成元年一〇月二日に設立されたが、右設立前は、原告が個人で自動車販売業を営んでいた。

3  原告(大豊の設立後は大豊、以下、単に「原告」という。)は、昭和六三年一月以降、その顧客に自動車を販売するにあたり、代金の分割払を希望する顧客からの申込みを受け、これを株式会社ジャックス(以下「ジャックス」という。)に取り次ぎ、原告の仲介によって、顧客とジャックスとの間でオートローン契約を締結できるという取扱店になっていた。

4  早川は、被告半田営業所に課される新車の販売ノルマを達成することができず、販売実績をあげたように見せかけるため、真実は新車が販売されていないのに販売されたとして本社に報告し、新車登録をした。これらのいわゆる新古車は、被告においては販売されたものとして処理されたため、早川は新古車の販売代金を翌月には本社に入金しなければならず、しかも、後に新古車を売却した場合でも、新車として販売するよりは大幅に減額した金額でしか売却できないため、そこに差損を生じ、この穴埋めを要することとなった。

そこで、早川は、仮装の自動車販売を企て、早川の知人に仮装の買主となってもらうよう承諾を得たうえ、原告に対し、顧客への自動車販売が実際にはされていないのに、これを秘匿し、顧客へ自動車を販売するのでその顧客のためにジャックスとの間のオートローン契約を使わせてもらいたいと虚偽の事実を告げて、原告をその旨誤信させ、昭和六二年七月二三日ころから平成元年一〇月二八日ころまでの間、原告をして、ジャックスと右の仮装の買主(古里優一ほか三二名)との間のオートローン契約(以下「本件オートローン契約」という。)の締結の仲介をさせ、ジャックスから原告に支払われた立替金合計三三〇三万八六八一円について、これを被告本社に入金するため、原告又は大豊から騙取した。

5  被告の責任原因(その一―債務不履行)

原告と被告とは、昭和五二年ころから、被告の新車の売買について継続的な取引関係があった。したがって、被告としては、原告と被告との間の取引において被告の従業員が不正を働くなどして被告の取引先である原告の信頼を裏切らないように指導監督する注意義務があった。ところが、被告は、右の注意義務に違反し、早川の前記違法行為を惹起させたものである。

6  被告の責任原因(その二―債務不履行)

被告は、被告がその顧客に売却する車両のオートローン契約の締結の仲介を原告に依頼するにあたっては、真実の売買契約についてのみ仲介を依頼すべき注意義務があるのに、これに違反し、架空の売買契約について、原告に本件オートローン契約の締結の仲介をさせた。

7  被告の責任原因(その三―不法行為)

早川が、原告に対し、顧客への自動車販売が実際にはされていないのに、これを秘匿し、原告をして本件オートローン契約の締結の仲介をさせ、ジャックスから支払われた立替金を原告から取得した行為は、原告に対する不法行為を構成する。

そして、ジャックスと顧客との間の本件オートローン契約の締結の仲介を早川が原告に依頼したことは、早川が被告の新車売上げに関し、これを仮装するために行われたものである。原告は、原告が販売する車両以外の車両についてのオートローン契約の仲介もできないわけではなく、被告も、被告の販売する車両についてのオートローン契約の仲介を原告に依頼することはあり得ないことではない。したがって、早川の右の行為は、早川が被告の新車を売却することに関連するものであるから、被告の事業及び早川の業務の執行に属し、又はこれと密接に関連するものである。

8  被告の責任原因(その四―求償債務)

ジャックスは、本件オートローン契約に基づき原告に三三〇三万八六八一円を立替払し同額の損害を被ったとして、平成二年一月三一日までに送達された訴状をもって、原告に対し同額の損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日から年六分の割合による遅延損害金の支払を求める訴えを提起し、原告は、平成七年一月二〇日に成立した裁判上の和解に基づき、同日、ジャックスに二〇〇〇万円を支払った。早川と原告との過失割合は八対二とみるべきであるから、早川の使用者である被告は、原告に対し、右の二〇〇〇万円の八割にあたる一六〇〇万円の求償債務を負っている。

よって、原告は、被告に対し、債務不履行もしくは使用者責任による損害賠償請求権に基づき三三〇三万八六八一円のうち二〇〇〇万円、又は求償権に基づき一六〇〇万円及びこれに対する平成七年一月二一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  原告の主張に対する認否

1  原告の主張1の事実は認める。

2  同2の事実は不知。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実は不知ないし否認する。早川が行っていたのは、形式上原告の所有となっている自動車を、早川の知人の承諾を得たうえ、原告から同人に販売したように仮装し、その架空の売買契約を前提として、原告がジャックスの代理人又は使者となり、ジャックスとその架空の売買契約の買主との間でオートローン契約を締結することを原告に依頼していたというものである。

5  同5のうち、原告と被告とが昭和五二年ころから被告の新車の売買について継続的な取引関係があったことは認め、その余は争う。

6  同6は争う。被告がその売却する車両についてのオートローン契約の締結の仲介を他の販売業者に依頼することは禁止されているのであって、右の仲介依頼は被告の営業に関する行為ではない。早川は、仮装の買主の使者又は代理人として原告にオートローン契約の仲介依頼をしたものであり、被告として右の仲介依頼をしたものではない。

7  同7のうち、早川の行為が原告に対する不法行為を構成することは否認し、被告が使用者責任を負うことは争う。

(一) 原告は、本件オートローン契約の締結の仲介にあたり、顧客への自動車の売買が実際にはされていないことを知っていたものである。

(二) 早川の行為は、(1)被告の事業の執行の範囲に含まれるか又はそれと密接に関連すること、(2)早川の本来の職務の範囲内にあるか又はこれと密接に関連すること、という要件のいずれにも該当しないので、被告が民法七一五条による損害賠償責任を負うことはない。

原告の取り扱うオートローン契約は、原告と顧客との自動車売買契約を前提とするものであり、それ以外で利用することを禁止されているものである。被告としても、自己の販売する自動車の代金支払のために、原告その他の他店が取り扱うオートローン契約を利用することは禁止している。したがって、早川が原告の取り扱うオートローン契約の利用を依頼することは、被告の事業の執行の範囲には含まれず、それと密接に関連するものともいえない。

また、被告半田営業所は、新車の販売拠点であって、中古車の販売はまったく行っていない。販売代金の支払にクレジット契約を用いることはあるが、その場合の信販会社は原則として日産クレジット株式会社であり、顧客の希望により他の信販会社を利用することがあるにすぎない。しかも、早川は半田営業所長であり、顧客への販売自体に携わることはない。早川の行為は、被告半田営業所と異なる場所において、ジャックスと架空の売買契約の買主(早川の知人)との間のオートローン契約の締結を、ジャックスの代理人又は使者である原告に依頼するというものであるから、早川の本来の職務とはまったく関係のない行為である。したがって、いずれの点からも、早川の行為は、早川の本来の職務の範囲内になく、これと密接に関連した行為でもない。

8  同8は争う。ジャックスは本件オートローン契約について原告の債務不履行責任を追及して訴訟を提起したものであり、原告がこれに応じて裁判上の和解をしたものである。このように、原告は、共同不法行為者としてジャックスに和解金を支払ったのではないから、被告に対する求償権を行使する根拠がない。

三  被告の主張

1  原告の悪意又は重過失

原告は、長期間にわたり自動車販売業に携わってきたものであり、被告との間でも継続的に取引を行ってきたものであるから、原告が実際には売却しない自動車の売買契約を仮装し、原告に対して本件オートローン契約の締結の仲介を依頼するという早川の行為が被告の業務上禁止されているものであって、早川の右の行為が早川の本来の職務執行外のものであることを知っていたのであり、仮にこれを知らなかったとしても、その点に重大な過失がある。

2  消滅時効

(一) 原告の主張する早川の不法行為は、昭和六二年七月二三日ころから平成元年一〇月二八日ころまでであったというのであるから、原告の被告に対する不法行為を理由とする損害賠償請求権は、それから三年後の遅くとも平成四年一〇月二八日の経過によって時効消滅している。

(二) 早川の不法行為については、平成元年一一月二二日付中日新聞に報道され、原告はこれによって本件の内容を知ったのであるから、右の損害賠償請求権は、それから三年後の平成四年一一月二二日の経過をもって時効消滅している。

(三) 原告は、平成二年七月二日、愛知県半田警察署司法巡査に対し、早川が仮装の車両売買契約のために本件オートローン契約の締結の仲介を原告に依頼し、それにより、ローン会社から立替金を騙し取ったという内容の供述をしており、遅くともその時点において、早川の不法行為を知っていたのであるから、それから三年後の平成五年七月二日の経過をもって、右の損害賠償請求権は時効消滅している。

(四) ジャックスは、平成二年一月二二日、原告に対する損害賠償請求訴訟を提起したのであるから、遅くともその時点で早川の不法行為による損害の発生を知っていたものであり、それから三年後の平成五年一月二二日の経過をもって、ジャックスの早川及び被告に対する損害賠償請求権も時効により消滅した。これにより、原告の被告に対する求償権も時効により消滅している。

(五) 原告は、平成二年一月、ジャックスから損害賠償請求訴訟を提起され、弁護士に同事件の処理を委任して、弁護士と相談していたのであるから、その時点で、被告に対し損害賠償請求訴訟を提起することはできた。それにもかかわらず、それをしなかったために消滅時効が完成したのであるから、被告が消滅時効の主張をすることが信義則に反するとか権利の濫用にあたるとかいうことはない。

(六) 被告は、右の消滅時効を援用する。

3  過失相殺

原告は、早川の詐言を軽信し、販売店とディーラーとの取引の常識からしてとうていあり得ない形態の本件オートローン契約の締結の仲介依頼に応じたのであるから、原告の損害額及び求償権を行使できる額の算定にあたっては、七割以上の過失相殺がされるべきである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は否認する。

2  同2は争う。本件では、原告と被告とは従来から取引関係にあり、原告の損害は被告において容易に調査できたものであり、原告が被告に対し損害賠償請求をすることも被告は予想できたものであるから、民法七二四条の立法趣旨からしても、本件について民法七二四条が適用されることはない。

原告が本件の損害の発生を知ったのは、日本信販株式会社から原告に提起されていた本件と同様の訴訟(当庁平成二年(ワ)第一五六九号事件)において、日本信販の損害の三分の一を支払うこともやむを得ないと考えて同事件において和解をした平成五年二月一九日である。また、求償権の消滅時効の起算日は、原告がジャックスに損害賠償債務を履行した日である。

被告は、他のローン会社から提起されていた本件と同様の訴訟において、原告のような販売業者が請求額の三分の一を支払い、被告も同額を支払うという和解をしており、その限度で債務の承認をしていたともいえるのであって、それにもかかわらず、本件において消滅時効の主張をすることは、信義則に反し、権利の濫用であって、許されない。

3  同3は争う。

第三  当裁判所の判断

一  紛争の経緯についてみるに、当事者間に争いのない事実及び甲第一号証、第二号証、第四号証、第六号証、第七号証、第九号証ないし第一三号証、乙第三号証ないし第五号証、第六号証の一、二、第八号証、第一四号証、原告本人尋問の結果によって認められる事実は、次のとおりである。

1  被告は、日産サニー中部販売株式会社を平成六年一月四日に吸収合併し、自動車販売等を業としている会社である。被告は、早川を従業員として雇用し、自動車販売に従事させていた。早川は、昭和六一年五月から、被告半田営業所の所長として、被告に勤務していた。

2  原告は、自動車販売を業とする大豊の代表取締役である。大豊は、平成元年一〇月二日に設立されたが、右設立前は、原告が個人で自動車販売業を営んでいた。

3  原告(大豊の設立後は大豊)は、昭和六三年一月にジャックスとの間で締結された基本契約に基づき、その顧客に自動車を販売するにあたり、代金の分割払を希望する顧客からの申込みを受け、これをジャックスに取り次ぎ、原告の仲介によって、顧客とジャックスとの間でオートローン契約を締結できるという取扱店になっていた。

4  早川は、毎月半田営業所に課される新車の販売ノルマを達成することができないことがあり、原告も以前からそのことを早川に聞かされていて、ノルマを達成するために新車を購入してほしいと頼まれたこともあった。早川はノルマを達成できないとき、販売実績をあげたように見せかけるため、真実は新車が販売されていないのに販売されたとして本社に報告し、新車登録をした。これらのいわゆる新古車は、被告においては新車が販売されたものとして処理されたため、早川は新古車の販売代金を翌月ころまでには本社に入金しなければならず、後に新古車を売却した場合でも、新車として販売するよりは大幅に減額した金額でしか売却できないため、そこに差損を生じ、この穴埋めを要することとなった。

5  そこで、早川は、右のノルマの達成や新古車を販売した場合の差損の穴埋めのために、オートローン契約を利用した仮装の自動車販売を企て、早川の知人の仮装の買主となってもらうよう承諾を得たうえ、原告に対し、顧客への自動車販売が実際にはされていないのに、右の仮装の買主のためにジャックスとの間のオートローン契約を使わせてもらいたいと依頼し、原告はこれに応じた。

6  原告が仲介を取り扱っているジャックスとの間のオートローン契約は、その対象となる売買が原告と顧客とのものに限定されていた。そこで、原告と早川は、実際には原告が顧客に自動車を販売するわけではないにもかかわらず、右の自動車を原告が顧客に売却するという形式をとった。ただ、原告が自動車の売主となるためには、被告がいったんその自動車を原告に売却するという形をとらなければならないはずであるが、そのような処理はされなかった。

7  原告は、昭和六三年四月二一日ころから平成元年一〇月二五日ころまでの間、早川からの依頼に応じ、ジャックスと右の仮装の買主(古里優一ほか三二名)との間の本件オートローン契約の締結の仲介をし、これにより、ジャックスは、架空の売買代金合計三三〇三万八六八一円を原告に立替払した。

8  原告は、ジャックスから支払を受けた立替払金をそのまま早川に渡すのではなく、予め、立替払金に近い額を現金や小切手で早川に渡していたこともあったが、金額的にみると、ジャックスから支払を受けた立替払金の全額か又は少なくともそのほぼ全額を早川に交付していた。(なお、原告は、これとは別に、ジャックスから販売促進費を受け取っていた。)。原告が早川に渡す小切手について、小切手帳の耳には、早川に渡した小切手の相手方名として被告とは記載されておらず、「新美」とか「サニー新美」などとの記載がされていた。また、原告は、早川を通じて被告から正規に新車等を購入したときは被告作成名義の領収証の交付を受けていたにもかかわらず、本件で早川に渡した現金や小切手については、被告作成名義の領収証を受け取らなかったし、これを要求することもなかった。

9  ジャックスは、本件オートローン契約に基づき原告に三三〇三万八六八一円を立替払し同額の損害を被ったとして、平成二年一月三一日までに送達された訴状をもって、原告に対する同額の損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日から年六分の割合による遅延損害金の支払を求める訴えを提起し、原告は、平成七年一月二〇日に成立した裁判上の和解において、同日、ジャックスに二〇〇〇万円を支払った。

二  原告は、被告が債務不履行による損害賠償義務を負うと主張するので、その当否について判断する。

前記認定の事実によると、原告は、実際には自分が顧客に販売したのでない自動車について、自分がその自動車を販売したとして、本件オートローン契約の仲介をしているのである。原告は、早川から被告への入金を早くして販売実績を上げるために本件オートローン契約の仲介をしてほしいと依頼され、これに応じたと供述する。しかし、被告が顧客に販売した自動車について、原告がこれを顧客に販売したような形をとったうえその売買につき本件オートローン契約を利用するよう依頼することが、早川の被告における本来の業務執行として許されるものでないことは明らかである。原告としても、もし本件オートローン契約が早川の被告における業務執行の範囲内のものであると考えていたのであれば、その自動車を被告が原告に販売し、原告が顧客に販売するという形式をとらなければならないはずであるから、ジャックスから交付された立替払金を早川に渡すにあたり、被告作成名義の領収証の交付を受けるべきであるのに、原告はこれを要求もしていなかったというのである。また、原告は、早川に渡した小切手についても、小切手帳の耳には、振出の相手方を被告と記載せず、早川の名を記載していたのであり、これらのことからすると、原告は、本件オートローン契約の仲介の依頼が被告における業務執行の一環としてされたものではなく、被告における本来の業務とは外れた早川の個人的行為としてされたものであることを知っており、これに協力する趣旨で、早川の右の依頼に応じたものとみるのが相当である。

そして、そうであるとするならば、早川の原告に対する本件オートローン契約の締結の仲介依頼は、実際には、被告における早川の業務執行外の行為であるという早川と原告との一致した認識のもとにされていたのであるから、その場面において、被告に何らかの債務が発生するとは考えられず、したがってまたその不履行と目すべきものが生じる余地もないというべきである。

よって、被告の債務不履行責任に関する原告の主張は、この点において理由がない。

三  原告は、被告が民法七一五条による損害賠償義務を負うと主張する。しかし、既に認定説示したところから明らかなとおり、原告は、早川の本件オートローン契約締結の仲介依頼が早川の被告における業務執行としてされたものでないことを知っていたのであるから、仮に、早川の原告に対する行為が架空売買についてのオートローン契約締結の仲介依頼であったという点において不法行為を構成することがあるとしても、被告が民法七一五条による使用者責任を負うことはないというべきである。

四  原告は、被告に対し、求償債務の履行を請求するので、この点について判断する。

1  本件の事実関係のもとでは、早川の行為と原告の行為はジャックスに対する共同不法行為を構成し得るものであるところ、被告から原告に売却された自動車を原告が顧客に販売するという形式的な面からみると、少なくともジャックスとの関係においてみる限り、早川の行為は外形的には被告の事業の執行及び早川の業務の執行の範囲内のものであり、したがって、被告もジャックスに対し民法七一五条一項に基づく使用者責任を負う関係にある。そして、原告の右の行為は、同時にジャックスとの間のオートローン契約締結の仲介に関する基本契約に基づく債務不履行をも構成するものであって、原告の不法行為責任と債務不履行責任とはいわゆる請求権競合の関係にたつ。

本件では、前記認定のとおり、原告が債務不履行責任を問われた訴訟において、原告がジャックスに二〇〇〇万円を支払う内容の裁判上の和解が成立し、これに基づいて右の二〇〇〇万円の支払がされているが、原告の責任について請求権競合が認められ、原告と早川とにつき共同不法行為による損害賠償義務が認められるという本件の事実関係のもとにおいては、原告と被告との責任の内部的な分担の公平を図るため、原告がジャックスに行った右の損害賠償金の支払についても、早川及び被告に対する求償が認められるべきである。そして、求償の前提となる責任の割合は、原告と早川との過失割合に従って定められるべきものであり、原告のジャックスに対する損害賠償額が右の過失割合によって定められる自己の負担部分を超えたものであるときは、その超える部分につき、被告に対し求償権を行使できるものと解される。

2  そこで、早川と原告との過失割合についてみるに、本件オートローン契約締結の仲介依頼は、早川の側の必要に応じてされたものであり、これによりジャックスから支払われた立替金についても少なくともそのほぼ全額が早川に交付されていること、他方、本件オートローン契約締結の仲介は、原告とジャックスとの基本契約に基づいてされているものであり、ジャックスに対する関係では原告が主たる立場にあったこと等、本件の諸般の事情を総合勘案すると、早川と原告との過失割合は六対四とみるのが相当である。

3  被告は、求償権について消滅時効が関係していると主張するが、求償権の消滅時効は原告がジャックスに現実に損害賠償をした日の翌日から進行し、その時効期間は一〇年間であると解すべきであり、これによると、本件において原告の被告に対する求償権につき消滅時効が完成していないことは明らかである。

4  被告は、求償権についても過失相殺の主張をするが、早川と原告との過失割合を前提とした求償権行使について、さらに過失相殺をすることは、原告の過失割合を二重に計算することになって不当であるというほかないから、この点に関する被告の主張は理由がない。

5  前記認定の事実によると、本件オートローン契約の締結によってジャックスが被った損害額は、少なくとも、ジャックスの別件訴訟において請求していた立替金三三〇三万八六八一円及びこれに対する平成二年二月一日から支払済まで年六分の割合による遅延損害金であり、その額は、原告がジャックスに二〇〇〇万円を支払った平成七年一月二〇日の時点において、元金三三〇三万八六八一円と遅延損害金九八五万〇一五二円(年六分の割合で四年と三五四日間、三三〇三八六八一×〇・〇六×四・九六九=九八五〇一五二)の合計四二八八万八八三三円であった。そして、そのうち、不真正連帯関係にあるのは、元金三三〇三万八六八一円と遅延損害金八二〇万八四六〇円(年五分の割合で四年と三五四日間、三三〇三八六八一×〇・〇五×四・九六九=八二〇八四六〇)の合計四一二四万七一四一円であり、これに前記の原告の過失割合を乗じると、不真正連帯関係の成立している額に対する原告の負担部分は一六四九万八八五六円となる。したがって、遅延損害金のうち不真正連帯関係にない一六四万一六九二円及び右の原告の負担部分一六四九万八八五六円の合計一八一四万〇五四八円を超える部分が原告の被告に対して求償できる額であるというべきである。

五  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、求償権に基づき、二〇〇〇万円から右の一八一四万〇五四八円を差し引いた一八五万九四五二円及びこれに対する求償権に基づく金員の支払を催告した日(平成七年八月二日の本件第一五回口頭弁論期日)の翌日である同月三日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、その限度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

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